経理の業務棚卸し|経験を「深さ」で3段階に整理する方法

経理の業務棚卸し|経験を「深さ」で3段階に整理する方法

私は転職活動、副業の開始、転職サービスへの登録と、3回にわたって自分の経験を書き出す機会がありました。そのたびに感じたのは、やってきたことを言葉にするのは難しいということです。現在は記帳代行で複数社の帳簿を見ています。そのなかで、私が信頼できると感じる担当者には、担当業務の広さだけでなく、処理の理由や確認先を説明できるという共通点がありました。この記事では、業務サイクルに沿った棚卸しの手順と、深さで整理する方法をまとめます。

なぜ棚卸しで手が止まるのか

経理の経験を書き出そうとして手が止まる理由の一つは、業務名だけでは何をどこまでできるかを表しにくいことだと思います。

私はこれまでに3回、自分の経験を書き出す機会がありました。会計事務所から一般企業へ転職するときの応募書類、副業で記帳代行を始めるときに自分の経験を説明した文章、そして転職サービスに登録したときの職務経歴の入力です。

3回とも共通していたのは、外の人に説明する必要があって初めて書き出したということでした。普段の業務では、自分が何をやっているかを言葉にする機会がありません。

そして毎回、同じところで止まりました。

  • 経理歴◯年
  • 月次決算、年次決算、売掛買掛管理、給与計算
  • 日商簿記2級

ここまでは書けます。しかし、この内容だと似た表現になりやすいのです。同じ「月次決算」でも、担当している範囲は人によってまったく違います。それなのに、業務名だけを並べると同じように見えてしまいます。

この記事では、業務サイクルに沿って書き出す手順と、書き出したものを「深さ」で整理する方法をまとめます。順番にやれば、自分が何をどこまでできるのかが見えてきます。

経理の業務棚卸しの3ステップを示した図解。STEP1は業務サイクル順に書き出す。STEP2は深さで3段階に分ける。STEP3は次に深める業務を見つける

まず業務サイクル順に書き出す

最初のステップは、日次・月次・年次の業務サイクル順に書き出すことです。この順番にすると漏れが少なくなります。

思いついた順に書き出すと、印象に残っている業務ばかりが並びます。実際には毎日やっている作業ほど当たり前になっていて、書き忘れやすいのです。

書き出す順番

日次の業務
現金や預金の入出金確認、日々の仕訳入力、経費精算の受付、請求書の受け取りと保管、支払いの準備など。

月次の業務
月次の締め、売掛金と買掛金の消込、給与計算に関わる処理、経費精算の締め、月次試算表の作成、社内への報告資料の作成など。

年次の業務
決算に向けた資料の準備、棚卸しへの立ち会いや集計、決算整理、税理士とのやりとり、年末調整に関わる処理、各種の年次届出など。

不定期の業務
新しい取引先の登録、契約内容が変わったときの処理、システムの入れ替え、他部署からの相談対応、監査や税務調査への対応など。

経理以外の業務も書き出す

中小企業では、経理以外の業務を兼務するケースもあります。私が転職した会社でも、経理と総務を兼務していました。

総務、労務、庶務、社内のパソコンやシステムの対応。経理の実績ではないと思っても、担当した業務として書き出します。

会計事務所で担当先の会計・税務業務を行う場合と、一般企業で自社の経理を担当する場合では、担当する範囲が異なります。この違いについては会計事務所から一般企業の経理へ|転職して分かった実務の違いで詳しく書きました。事務所から事業会社へ移った方は、そちらも参考にしてください。

この段階では評価しない

書き出すときのコツは、うまくできているかどうかを考えないことです。

「これは人に自慢できる話ではない」と思って書かないでいると、リストがすかすかになります。まずは担当したものを全部並べます。整理は次のステップでやります。

次に「深さ」で3段階に分ける

書き出したら、次はそれぞれの業務を深さで3段階に分けます。私が使っているのは、教わればできる/一人でできる/人に教えられるの3つです。

この3段階は、人を評価するためのものではありません。業務ごとに自分の現在地を確認し、次に何を深めるかを見つけるための区分です。

経理業務の理解の深さを3段階で示した図解。第1段階は教わればできる、第2段階は一人でできる、第3段階は人に教えられる。人を評価するためではなく現在地を確認するための区分

同じ「月次決算を担当」でも、中身はまったく違います。

  • 手順書を見ながら入力している
  • 手順書がなくても一人で締められる
  • 新しく入った人に教えられる

この3つは、外から見ると同じ「月次決算の経験あり」です。しかし実際にできることは大きく違います。

3段階の判定基準

第1段階:教わればできる

手順を教われば作業できる状態です。ただし、手順から外れた場面では手が止まります。「これはどうするんでしたっけ」と誰かに聞く必要があります。

第2段階:一人でできる

手順書がなくても、その業務を最後まで進められる状態です。

ここでいう「一人でできる」とは、すべてを自己判断で完結させることではありません。イレギュラーに気づき、必要な相手に確認しながら、業務を最後まで進められる状態です。

第3段階:人に教えられる

作業ができるだけでなく、なぜその手順なのかを説明できる状態です。新しい担当者に引き継ぐことができ、質問にも答えられます。

この3段階の中では、第3段階が最も理解の深い状態だと私は考えています。人に教えられるということは、自分の中で理解が整理されているということだからです。

段階状態判定の目安
第1段階教わればできる手順を教われば作業できる。手順から外れると手が止まる
第2段階一人でできる手順書がなくても最後まで進められる。イレギュラーに気づき、確認先が分かっている
第3段階人に教えられるなぜその手順なのかを説明できる。引き継ぎができる

判定するときの注意点

判定は業務ごとに行います。業務ごとに段階が異なっていても不自然ではありません。

たとえば、日々の仕訳入力は第3段階でも、年次決算は第1段階というように、業務ごとにばらつくのが自然です。

もう1つ大事なことがあります。担当年数だけでは、理解の深さは判断できないということです。

長く担当していても理由を説明しにくい業務がある一方、担当期間が短くても、処理の理由や確認先まで整理できている業務もあります。年数ではなく、業務ごとに見ていきます。

複数社の帳簿を見て感じた、信頼できる担当者の共通点

記帳代行で複数社の帳簿を見ていると、信頼できると感じる経理担当者にはいくつかの共通点があります。担当業務の広さだけでは見えてこない部分です。

決算経験や担当範囲の広さも大切です。ただ、それだけでは、帳簿や資料のやりとりを安心して進められるかまでは分かりません。

私が信頼できると感じる担当者の共通点

  1. 何をどこまで担当したかが明確
    自分の担当範囲と、人に任せている部分の境界がはっきりしています。質問したときの返答が具体的です。
  2. 資料の出し方が整っている
    必要な資料が整理されており、何の処理に関する資料なのかが分かる状態になっています。
  3. なぜその処理なのかを説明できる
    前任者から引き継いだ処理でも、自社のルールの理由を言葉にできます。
  4. イレギュラーに気づいて、確認してから進める

この4つ目が、私が一番重要だと感じている点です。

できる人は、勝手に処理しない

「一人でできる」と聞くと、何でも自分で判断して進める状態を想像するかもしれません。

しかし、私が実務で信頼できると感じたのは、むしろ、いつもと違う場面で手を止められる担当者でした。

たとえば、こういう場面です。

  • 初めての種類の支出が出てきたとき
    過去に同じ処理がない支出は、どの勘定科目にするかで迷います。ここで自分だけの判断で決めてしまうと、あとから修正が必要になることがあります。
  • 金額がいつもと大きく違うとき
    同じ取引先、同じ名目なのに金額が違う。この場合、単なる金額違いなのか、取引内容そのものが変わったのかで処理が変わります。

こうした場面で手を止めて、上司や顧問税理士に確認してから進める。こうした確認ができる担当者とは、帳簿や資料のやりとりを安心して進められると感じます。

先ほどの第2段階「一人でできる」の意味も、ここにあります。すべてを自分で決めることではなく、気づいて、確認先が分かっていることです。

私が気になるのは、こんな場合

  • 前任のやり方をそのまま続けている
    「そう教わったので」で止まっていて、理由を考えていない状態です。前提の変化に気づきにくくなります。
  • 自分のやっている仕事を深く理解していない
    作業としては回っているものの、なぜそうするのかを聞かれると答えられない状態です。

棚卸しでは、ここを見る

つまり、棚卸しで確認したいのは「何年やったか」「何をやったか」だけではありません。

その業務について、なぜそうしているのかを説明できるか。いつもと違うことが起きたとき、気づけるか。

ここが、業務名のリストからは見えてこない部分です。そして、私が帳簿や資料を受け取る立場で見ている部分でもあります。

業務への理解を一段深めるには

理由の分からない処理を減らしていくと、説明できる業務が増えていきます。まずは特別な教材を探すより、日々の業務のなかで、理由の分からない処理を一つずつ確認するところから始められます。

前任者から引き継いだ処理を、理由が分からないまま続けている。これは決して珍しいことではありません。引き継ぎでは、理由まで確認できないまま、まず締めを回すこともあります。

確認する順番

一度に全部を見直すのは無理があります。私が現実的だと思う順番は次のとおりです。

  1. よく出てくる処理から
    毎月必ず発生する処理から始めます。頻度が高いものほど、理解したときの効果が大きいためです。
  2. 自社独自だと感じる処理
    「他社ではこうしないのでは」と感じる処理があれば、そこは理由がある可能性が高い場所です。過去の経緯や、その会社の事情が背景にあります。
  3. 金額が大きい処理
    間違えたときの影響が大きい部分です。ここを理解しておくと、判断に自信が持てます。

誰に聞くか

聞く相手は会社によって違います。社内に経理の上司がいる場合もあれば、顧問税理士に確認する体制の場合もあります。

私が転職した会社では、会計・税務上の判断に迷ったときは顧問税理士に確認していました。まず社内で確認先がどこなのかを把握しておくと、動きやすくなります。

なお、税務・労務上の取扱いは、事実関係によって異なります。社内の確認ルールに従い、必要に応じて顧問税理士、社会保険労務士、行政機関などに確認してください。

記録に残す

確認して分かったことは、メモに残しておくことをおすすめします。

自分の理解が整理されるだけでなく、そのメモは、引き継ぎ資料を作るときの土台にもなります。人に教えられる状態、つまり第3段階に近づく材料にもなります。

書き出して初めて分かること

実際に書き出してみると、自分でも意外な発見があります。私の場合、大きかったのは2つでした。

強みだと思っていなかったことが強みだった

自分では強みだと思っていなかったことが、自分の経験を説明する材料になると気づきました。これが1つ目です。

たとえば、複数の担当先の処理を見てきた経験や、税理士が何を必要としているかを分かっていること。自分にとっては日常でしたが、書き出して人に説明する場面になって初めて、それが説明できる材料になると気づきました。

当たり前になっていることほど、自分では強みだと認識しにくいものです。だからこそ、書き出す作業に意味があります。

「やったこと」と「できること」は違う

2つ目は、この2つの差でした。

経験としてはあるけれど、一人で最後まで回せるかというと自信がない。逆に、担当期間は短くても、理由まで理解できている業務もある。書き出して深さで分けてみると、この差がはっきりしました。

そして、この差に気づけたことが一番の収穫でした。「やったことがある」で止めていると、次に何を伸ばせばいいのかが見えません。深さで分けると、理由や確認先をまだ説明できない業務が、次に理解を深める候補として見えてきます。

書き出す作業自体に意味がある

棚卸しは、転職のためだけの作業ではありません。

自分が何をどこまでできるのかを把握していないと、社内で相談されたときも、外の選択肢を考えるときも、判断の材料が足りません。書き出して整理しておくこと自体が、次の行動の材料になります。

棚卸ししたあと、何に使えるか

整理した内容は、会社に残る場合にも、外を見る場合にも使えます。どちらか一方のための作業ではありません。

今の会社で働き続ける場合

評価面談や上司への説明の材料になります。 自分の担当範囲と、そのうちどこまでを一人で回せているかを具体的に伝えられるようになります。

引き継ぎを整える材料になります。 第3段階に整理した業務は、引き継ぎ資料の骨格になります。属人化している業務を見つけることにもつながります。

次に伸ばす方向が決まります。 理由や確認先をまだ説明できない業務が見えるので、どこから理解を深めるか判断できます。

外の選択肢を考える場合

応募書類や面接で、具体的に説明できる材料になります。「経理歴◯年」ではなく、「月次決算は締めまで一人で担当し、年次決算は税理士との窓口を担当していた」といった形で伝えられます。

ただし、棚卸しをしたからといって、すぐに転職を考える必要はありません。選択肢を持っている状態と、実際に動くことは別です。

私自身、転職する気がないまま転職サービスに登録して、自分の経験が外からどう見られているのかを確認しました。その経緯はビズリーチに登録だけでも意味はある?転職しない40代経理の使い方に書いています。

また、整理した経験を求人票と照らし合わせる方法は経理の求人票の見方|応募前に確認する3点と面接で聞く質問にまとめました。求人票から読み取れる部分と、面接で確認する部分の分け方を書いています。

自分が何をどこまでできるのかを把握していれば、今の会社で続けるにしても、環境を変えるにしても、自分で選ぶための材料が増えます。この記事で伝えたいのは、そこです。

棚卸しシート

実際に使えるシートの形にすると、次のようになります。

「自分の担当範囲」は、業務名だけでなく「どこからどこまでか」を書きます。たとえば月次決算なら、資料回収まで/仕訳入力まで/試算表作成まで/税理士への資料提出まで/社内報告まで、のように書き分けます。

「深さ」の欄には、第1段階(教わればできる)/第2段階(一人でできる)/第3段階(人に教えられる)のいずれかを記入します。

業務自分の担当範囲深さ処理の理由を説明できるイレギュラー時の確認先次に確認すること
日々の仕訳入力
月次の締め
売掛金・買掛金の消込
経費精算
給与計算に関わる処理
月次試算表の作成
決算資料の準備
棚卸しの集計
税理士とのやりとり
年末調整に関わる処理
新規取引先の登録
(経理以外の兼務業務)

無料ダウンロード:棚卸し・求人票照合シート

この記事で紹介した棚卸し表を、印刷して書き込める形にまとめました。A4横2枚で、1枚目が業務ごとの棚卸し、2枚目が求人票の記載と自分の経験を照合する欄になっています。メールアドレスの登録は不要です。

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まとめ

最後に、棚卸しの手順を整理します。

  1. 業務サイクル順に書き出す(日次→月次→年次→不定期)。経理以外の兼務業務も含める
  2. この段階では評価しない。まず全部並べる
  3. 深さで3段階に分ける(教わればできる/一人でできる/人に教えられる)
  4. 理由や確認先をまだ説明できない業務が、次に理解を深める候補になる
  5. なぜその処理なのかを確認していく。頻度の高いものから
  6. 確認したことをメモに残す。引き継ぎ資料の土台になり、第3段階に近づく

記帳代行で複数社の帳簿を見てきた立場から言うと、信頼できると感じる担当者には、担当業務の広さだけでなく、処理の理由や確認先を説明できるという共通点がありました。

そして、いつもと違うことが起きたときに気づいて確認できるかどうか。ここが、業務名のリストからは見えない部分です。

棚卸しは一度やって終わりではありません。担当が変わったときや、新しい業務を任されたときに更新していくと、自分の現在地が分かる状態を保てます。


まずは1週間分でかまいません。今週やった業務を書き出して、それぞれに「なぜその処理なのか説明できるか」を書き添えてみてください。説明できない業務が見つかれば、そこが次に理解を深める場所です。

情報の確認日:2026年8月3日

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