会計事務所で複数社の会計・税務業務を担当したあと、一般企業の経理へ転職しました。現在も副業の記帳代行で複数社の帳簿を見ています。両方を経験して分かったのは、少なくとも私の場合、求められる正確さに大きな差はなく、違ったのは「どこまで見る必要があるか」だったことです。転職した会社では、仕訳や決算だけでなく総務の仕事も担当することになりました。この記事では、転職前に想像していたことと、実際に働いて分かった違いを整理します。
会計事務所と一般企業では、見る範囲が違う
会計事務所で行う担当先の会計・税務業務と、一般企業の経理では、同じように会社の数字を扱っていても、見る範囲が違いました。私が勤めた会計事務所では、複数の担当先について、記帳や決算、申告などの業務に関わっていました。一方、一般企業の経理では、自社1社の数字と、その数字が生まれる前後の業務まで広く見ることになりました。
私が勤めていた会計事務所では、月次で関わる担当先を10社以上、決算のみを担当する会社を含めると20社近くを並行して見ていました。1社あたりに使える時間は限られています。そのぶん、担当する会計・税務業務を、正確かつ迅速に仕上げる力が求められました。
一方、転職した会社では、担当するのは自社だけになりました。ただし、扱う範囲は一気に広がります。日々の仕訳から月次の締め、支払、そして経理以外の業務まで関わることになりました。
私の経験を一言で表すなら、会計事務所では会計・税務を中心に複数の担当先を見る「深さ」が求められ、一般企業では自社の経理と周辺業務を横断して見る「広さ」が求められました。
| 比較項目 | 私が勤めた会計事務所 | 私が転職した一般企業 |
|---|---|---|
| 担当する対象 | 複数の担当先 | 自社1社 |
| 担当する範囲 | 記帳・決算・申告書の作成など、会計・税務業務 | 日常経理から月次・決算、周辺業務まで |
| 主なやりとり相手 | 担当先の経理担当者、所内の税理士 | 社内の各部署、顧問税理士 |
| その他の業務 | ほとんどなかった | 総務業務も担当した |

資料が揃わなかったのは、むしろ会計事務所だった
転職前、私は「社内では資料が集まらなくて苦労するだろう」と想像していました。しかし実際は逆でした。資料が揃わずに困ったのは、会計事務所にいた頃の方が多かったのです。
会計事務所は、担当先から資料を送ってもらう立場です。こちらがどれだけ急いでいても、相手の会社の都合が優先されます。通帳のコピーが届かない、請求書が一部だけ足りない。そういう状態で作業を止めて待つ場面が、たびたびありました。
一方、私が転職した会社では、棚卸台帳をいつまでに提出するといった社内ルールが決まっていました。決まった時期に、決まったものが出てくる。資料を回収する負担は、事務所時代よりかなり小さくなりました。
もちろん、これは会社によって差があると思います。社内のルールが整っていない会社であれば、事務所時代と同じように資料を待つことになるはずです。実際、記帳代行で複数社の帳簿を見ている今も、資料の出方は会社ごとにかなり違うと感じています。
ここで言いたいのは「一般企業の方が楽だ」ということではありません。資料が揃いやすいかどうかは、会計事務所か一般企業かという違いよりも、提出期限や担当者が決められ、そのルールが実際に運用されているかに大きく左右されます。転職先を選ぶときは、ここを確認できると働きやすさが変わってきます。
一般企業の経理は正確さが緩いのか?
転職前、私は「一般企業は会計事務所ほど細かくないのではないか」と少し思っていました。しかし実際に働いてみると、少なくとも私の経験では、求められる正確さに大きな差はありませんでした。
理由はシンプルです。自社の数字も、最終的には決算書や税務申告につながります。また、日々の処理を間違えれば、支払額や月次の数字にも影響します。私が転職した会社では、決算や申告の過程で顧問税理士の確認も入るため、社内だけで完結する話ではありませんでした。
事務所時代と変わったのは、正確さの水準ではなく、正確に処理しなければならない範囲でした。会計事務所では、担当先ごとに依頼された会計・税務業務を、期限までに仕上げることが中心でした。一方、一般企業では、その数字ができる前段階にある請求、支払、社内申請にも関わることになりました。
「一般企業に移れば、会計処理の正確さにそこまで神経を使わなくてよくなる」と考えているなら、そこは想像と違うかもしれません。求められる正確さは変わらないまま、見なければいけない範囲が増える、というのが私の実感です。
なお、経理体制や税理士との関わり方は会社によって大きく異なります。ここに書いたのはあくまで私が経験した1社での話です。
一般企業では「経理だけ」で終わらなかった
転職して一番大きかった変化は、担当する仕事が経理だけではなかったことです。私が転職した会社では、経理と総務を兼務することになりました。
会計事務所にいた頃は、会計・税務の知識を中心に仕事を進めていました。求められる知識の方向が、比較的はっきりしていたとも言えます。
私が転職した会社では、経理以外の業務にも目を向ける必要がありました。経理処理だけでなく、総務業務を通じて関わる社内外の相手も増えました。経理の知識だけでは対応できない場面が出てきます。
特に印象に残っているのは、パソコンやシステムに関する相談でした。経理とは直接関係のない内容でも、分かる人が対応する場面があり、担当する仕事の幅が広がっていきました。
自分の場合は経理と総務の兼務だったこともあり、担当外と線を引くより、分かることには対応する「なんでも屋」のような姿勢が必要でした。これは大変さでもありますが、会社の中で自分の役割が広がっていく面もありました。
会計事務所から一般企業への転職を考えるとき、「経理の仕事内容がどう変わるか」だけでなく、「経理以外にどこまで担当するのか」を見ておくと、入社後のギャップが小さくなります。
会計事務所の経験が役立った3つの場面
「事務所の経験は、一般企業で通用するのか」。転職前に私が一番気にしていたのはここでした。結論から言うと、私の場合ははっきり役立ちました。特に効いたのは次の3つの場面です。
1つ目は、仕訳の判断が早かったこと
会計事務所では複数の担当先の帳簿を処理するため、日々さまざまな取引の仕訳に触れます。この積み重ねがあったので、転職先で見慣れない取引が出てきても、どこが論点になりそうか見当がつき、確認すべき点を絞ることができました。毎回ゼロから調べる必要がなく、判断までの時間を短くできたのです。
2つ目は、決算までの流れを最初から想像できたこと
会計事務所では、月次の処理が年次の決算にどうつながるかを、複数の担当先の分だけ見てきました。そのため、転職先でも「この処理は決算のときにここに効いてくる」という見通しを持つことができました。決算で必要になることを意識しながら、日々の処理を進めることができました。
3つ目は、税理士が何を必要とするかが分かったこと
事務所側にいた経験があるので、顧問税理士がどんな資料を、どのタイミングで、どんな状態で欲しいのかが想像できました。先回りして資料を整えておけたため、決算や申告の時期のやりとりもスムーズでした。
会計事務所からの転職を考えている方にとって、この3つは応募書類や面接で伝えやすい強みです。事務所では当たり前に行っていたことでも、一般企業では強みとして活かせる場合があります。
一般企業では、仕訳以外の対応も求められた
一方で、事務所の経験だけではカバーできない仕事もありました。私の場合、実際に対応する場面が多かったのは次の2つです。
1つ目は、パソコンやシステムまわりの対応
先ほども触れましたが、転職した会社では、パソコンの操作やシステムのトラブルについて相談を受けることがありました。会計事務所にいた頃は、周囲も業務でパソコンや会計ソフトを日常的に使っていたため、こうした相談を受ける場面はほとんどありませんでした。経理の仕事とは直接関係ありません。それでも、社内で「詳しい人」として見てもらえると、頼ってもらえる場面が増えていきました。
2つ目は、顧問税理士と社内の間に入る調整
税理士とのやりとりは、専門用語をそのまま社内に伝えても通じないことがあります。逆に、社内の事情を整理しないまま税理士に相談しても、話が進みません。両方の言葉が分かる立場として、間に入って話をつなぐ役割は、事務所経験があったからこそできたことだと感じています。
この2つに共通するのは、仕訳や決算のスキルそのものではないということです。
会計事務所にいた頃は、会計・税務の専門知識が、仕事を進めるうえで中心となる力でした。一方、私が転職した会社では、専門知識に加えて、社内の困りごとに対応する力も求められました。
一般企業で経理として働くなかで、私は「どうしたら会社から求められる存在になれるか」という視点を大切にするようになりました。日々の実務を通じて「経理以外のことも分かる人」になっていくことは、社内で頼られる場面を増やし、自分自身の仕事の幅を広げることにもつながりました。
ただし、何でも一人で抱え込むという意味ではありません。自分で対応できることと、詳しい人や外部の専門家につなぐべきことを判断する力も必要です。
転職前に確認しておきたい4つのこと
会計事務所から一般企業への転職を考えるなら、求人票に書かれている条件だけでなく、次の4つを確認しておくことをおすすめします。私自身の経験と、記帳代行で複数社の経理体制を見てきた経験から選んだ項目です。
1. 経理以外に担当する仕事はあるか
求人によっては、経理と総務など複数の業務を兼務する場合があります。私が転職した会社でも、経理と総務を担当することになりました。求人票に「経理事務」と書かれていても、実際には幅広い業務を任される場合があります。面接の場で、経理以外にどんな業務を担当するのか、具体的に確認しておくと入社後のギャップを減らせます。
2. 前任者からの引き継ぎはあるか
前任者が在籍しているうちに入社できるのか、すでに退職していて引き継ぎ資料だけが残っているのか。それとも、資料もないのか。この違いは、入社直後の働き方に大きく影響します。引き継ぎが薄いほど、過去の帳簿や社内資料を自分で読み解く負担が大きくなります。必要に応じて、顧問税理士や社内の関係者に確認しながら進めることになります。
3. 月次・決算のスケジュールは決まっているか
先ほど書いたとおり、資料の揃いやすさはルールの運用に左右されます。月次の締め日や、各部署からの提出期限が決まっているかどうかは、日々の働きやすさに直結します。面接で「月次はいつ頃締まりますか」と聞いてみると、体制の整い具合がある程度見えてきます。
4. 会計・税務処理に迷ったとき、誰に確認するか
私が転職した会社では、会計・税務上の判断に迷った場合、顧問税理士に確認していました。社内の経理責任者や上司が判断する会社もあります。確認先と判断の流れが決まっているかを聞いておくと、入社後に一人で抱え込むリスクを減らせます。
まとめ|会計事務所は深さ、一般企業は広さ
最後に、この記事の内容を整理します。
- 私が経験した範囲では、会計事務所は会計・税務を中心に複数の担当先を見る「深さ」、一般企業は自社の経理と周辺業務を見る「広さ」が求められた
- 資料が揃いやすいかどうかは、事務所か企業かではなく、ルールが運用されているかに左右される
- 少なくとも私の経験では、求められる正確さに差はなかった。変わるのは範囲
- 事務所経験は、仕訳の判断・決算の見通し・税理士対応の3つで活きた
- 一般企業では、専門知識に加えて、社内の困りごとに対応する力も求められた
私が経験した職場を基準にするなら、会計・税務の専門性を複数の担当先の実務を通じて磨きたい人には会計事務所、自社の経理と周辺業務に広く関わりたい人には一般企業が選択肢になります。ただし、実際の仕事内容は職場の規模や体制によって異なります。
大事なのは、いま自分がどちらの環境で、どんな経験を積んでいるかを把握しておくことです。それが分かっていれば、この先も同じ場所で深めるのか、環境を変えて広げるのかを、自分で選べるようになります。
その現在地をどう整理すればよいかについては、経理の業務棚卸し|経験を「深さ」で3段階に整理する方法で具体的な手順をまとめました。業務サイクル順に書き出して、深さで3段階に分ける方法です。
この記事が、ご自身の現在地を整理するきっかけになれば嬉しいです。
この記事を読んで「自分の場合はどうだろう」と思われた方は、いま担当している業務を書き出すところから始めてみてください。何をどこまで担当しているかが見えると、この先の選択肢も考えやすくなります。
情報の確認日:2026年8月1日